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【AIエージェント】ダニエル・カーネマンの行動経済学に基づく意思決定支援ツールを作成しました!

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AIを活用したプログラミングの記事を作成しています!

第1章: はじめに

1-1. この記事でわかること

こんにちは!今日は、私が開発した「意思決定チェックエージェント(Enhanced Decision Check Agent)」についてご紹介します。これは、行動経済学のチェックリストに基づき、提案を深く、客観的に評価するためのAIエージェントです。Web検索による情報収集、そして評価結果の自己反省機能を備えることで、より多角的で信頼性の高いレポートを生成します。本記事では、このエージェントの仕組みから、どのようにして高度な意思決定を支援するのかを、詳しく解説していきます。

1-2. 想定読者

  • AIエージェント開発に興味がある方
  • LangGraphやLangChainの活用事例を知りたい方
  • 意思決定プロセスにAIを導入したいビジネスパーソン
  • 行動経済学に基づいた意思決定支援に興味がある方
  • Pythonプログラミングの経験があり、より高度なAIシステムを構築したい方

第2章: プログラムの核心機能

2-1. 全チェックリストの一括評価

このエージェントは、行動経済学に基づいたチェックリストを用いて、提案を一括で評価します。ただ項目をチェックするだけでなく、LLM(大規模言語モデル)の推論能力を最大限に活用し、各項目に対して「リスクあり」「注意」「問題なし」といった判断と、その根拠となるコメントを生成します。これにより、単なる数値評価では見過ごされがちな、質的なリスクや機会を明らかにします。

チェックリストはダニエル・カーネマンらの「意思決定の行動経済学」に記載されたものを引用しており、以下のようにJSONファイルから読み込むようにしています。

“Before You Make That Big Decision” 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年11月号

[
  {
    "category": "意思決定者が自問すべき質問",
    "name": "利己的バイアス",
    "question": "提案チームが『私利私欲にかられて意図的に誤りを犯したのではないか』と疑われる理由はないか?",
    "guideline": "提案を慎重に慎重を重ねて検討する。特に、楽観的すぎないかどうかをチェックする。"
  },
  {
    "category": "意思決定者が自問すべき質問",
    "name": "感情ヒューリスティック",
    "question": "提案者たち自身が、その提案にほれこんでいないか?",
    "guideline": "チェックリスト上の全ての品質管理を厳格に適用する。"
  },
  {
    "category": "意思決定者が自問すべき質問",
    "name": "グループシンク",
    "question": "提案チームの中に反対意見があったか?それは十分検討されたか?",
    "guideline": "必要に応じて、慎重に反対意見を募る。"
  },
  {
    "category": "提案者に問うべき質問",
    "name": "顕著性バイアス",
    "question": "印象に深く残っている成功事例との類似性が、分析に過度の影響を及ぼしていないか?",
    "guideline": "もっと類似点を探し、現状との類似性を綿密に分析する。"
  },
  {
    "category": "提案者に問うべき質問",
    "name": "確証バイアス",
    "question": "提案には信頼できる代替案が含まれているか?",
    "guideline": "さらなる選択肢を求める。"
  },
  {
    "category": "提案者に問うべき質問",
    "name": "利用可能性バイアス",
    "question": "一年後に同じ意思決定を繰り返すとしたら、どのような情報が必要か?それを今入手できるか?",
    "guideline": "さまざまな意思決定に必要なデータのチェックリストを使用する。"
  },
  {
    "category": "提案者に問うべき質問",
    "name": "アンカリング・バイアス",
    "question": "数字の出所を承知しているか?根拠のない数字があるか?過去からの推定や恣意的なアンカーはないか?",
    "guideline": "他のモデルやベンチマークから導かれる数字をもとに再考し、新たな分析を求める。"
  },
  {
    "category": "提案者に問うべき質問",
    "name": "ハロー効果",
    "question": "ある分野で成功した人・組織・手法が、他分野でもうまくいくと過剰に仮定していないか?",
    "guideline": "誤った推論を排し、他にも同様の事例を探すようチームに指示する。"
  },
  {
    "category": "提案者に問うべき質問",
    "name": "サンクコストの錯誤/授かり効果",
    "question": "提案者は過去の決定にこだわりすぎていないか?",
    "guideline": "新しいCEOになったつもりで問題を検討する。"
  },
  {
    "category": "提案を評価するための質問",
    "name": "過信・計画錯誤・楽観・競合軽視",
    "question": "基本となるケースは楽観的すぎないか?競合の反応や外部環境を軽視していないか?",
    "guideline": "チームには外交的視野によって主張させる。『戦争ゲーム(wargaming)』を利用する。"
  },
  {
    "category": "提案を評価するための質問",
    "name": "最悪の事態への備え",
    "question": "最悪のケースは本当に最悪か?想定外の連鎖はないか?",
    "guideline": "『死亡前死因分析(premortem)』を行い、最悪の事態が起こったという仮定の下で原因シナリオを作成する。"
  },
  {
    "category": "提案を評価するための質問",
    "name": "損失回避",
    "question": "提案チームは用心深すぎないか?リスク回避が過剰ではないか?",
    "guideline": "リスクの責任を共有・低減するためのインセンティブを再調整する。"
  }
]

2-2. Markdownレポートの自動出力

評価結果は、人間が読みやすいMarkdown形式のレポートとして自動的に出力されます。このレポートには、総合的な意思決定(採用・保留・却下)とその理由、各バイアス評価の詳細、そして後述するリサーチ結果や自己反省からのフィードバックがすべて含まれています。これにより、意思決定者は一目で提案の全体像と詳細なリスク要因を把握できます。

2-3. リサーチエージェントによる情報収集

意思決定の質を高めるためには、正確で多角的な情報が不可欠です。本エージェントは、Tavily Search Resultsツールを活用したリサーチエージェントを内包しており、提案内容に関連する最新の情報をWebから自動的に収集します。これにより、LLMの知識だけでは補えない、リアルタイムな外部情報を取り入れた評価が可能になります。

2-4. 自己反省エージェントによる評価の反復と改善

最も革新的な機能の一つが、自己反省エージェントです。このエージェントは、意思決定エージェントが生成した評価結果を客観的にレビューし、その妥当性と網羅性を判断します。もし評価が不十分だと判断された場合、さらなる情報収集や異なる視点での再評価を促すフィードバックを提供し、最大反復回数に達するまでこのプロセスを繰り返します。これにより、評価の質と信頼性を段階的に向上させます。

第3章: 技術的深掘り – LangGraphとPydanticの力

3-1. LangGraphによるワークフローオーケストレーション

私がこのエージェントの構築で特に重要だと感じたのは、LangGraphの活用です。LangGraphを使用することで、リサーチ、評価、自己反省といった複雑なエージェント間の連携を、状態(State)と遷移(Transition)という明確な形で定義できました。これにより、エージェントがどのように動き、どのような条件で次のステップに進むのかを視覚的にも理解しやすく、柔軟な制御が可能になっています。まるでAIに思考プロセスを与えているような感覚です。

3-2. Pydanticによるデータモデリング

エージェントが扱う多岐にわたるデータ(提案、チェックリスト、評価結果、自己反省など)は、PydanticのBaseModelを用いて厳密に構造化されています。これにより、LLMからの出力が常に期待する形式に沿っていることが保証され、データのバリデーションと、エージェント間のスムーズなデータ連携を実現しています。型の恩恵をAI開発でも実感できるのは素晴らしいことです。

3-3. LangChainコンポーネントとの連携

本エージェントは、LangChainの豊富なコンポーネント群を最大限に活用しています。ChatOpenAIによるLLMとの連携、ChatPromptTemplateによるプロンプトの構造化、TavilySearchResultsによるWeb検索など、各機能がシームレスに統合されており、複雑なAIシステムを効率的に構築するための強力な基盤となっています。

第4章: 実際に使ってみよう! (CLI)

このエージェントはコマンドラインから簡単に実行できます。

python enhanced_decision_agent.py \

    –proposal “評価したい提案内容(テキスト)” \

    –checklist checklist.json \

    –output enhanced_report.md \

    [–model “gpt-4o”]

  • –proposal: 評価したい提案内容をテキストで指定します。
  • –checklist: 評価に使用するチェックリストが記述されたJSONファイルのパスを指定します。
  • –output (任意): 生成されたMarkdownレポートの保存先ファイルパスを指定します。
  • –model (任意): 使用するOpenAIモデル名を指定します。

APIキーは、.envファイルにOPENAI_API_KEYとTAVILY_API_KEYの形式で設定する必要があります。

第5章: まとめ

今回ご紹介した「強化された意思決定チェックエージェント」は、LangGraphとLangChainの強力な組み合わせによって実現された、次世代の意思決定支援システムです。リサーチ、評価、自己反省という一連のプロセスをAIが自律的に実行することで、人間が行う意思決定の質を飛躍的に向上させる可能性を秘めていると私は確信しています。まだ課題は多いと思いますが、このエージェントが、より客観的で、より根拠に基づいた意思決定を支援し、ビジネスや研究、そして私たちの日常生活に新たな価値をもたらすことを期待しています。もし今回の内容が面白いと思っていただけたり、何かアドバイスなどありましたら反応して頂ければ幸いです!

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